株式会社市場経済研究所

市場研コラム

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 文学にみる「マネー&相場」−13− <鍋島>  (2006.02.15)


司馬遼太郎著『アメリカ素描』
ウォール街を支配するワスプとユダヤ人



 司馬遼太郎(1923−1996)がウォール街を訪ねたのは昭和60年のことだった。日本経済がバブル花やかなりし頃で、アメリカのシンボル企業やビルを次々に傘下に収め「ジャパン アズ NO1」が叫ばれた頃だ。

 案内役は当時野村証券の専務で同時に現地法人であるノムラ・セキュリティ・インターナショナルの会長でもある寺沢芳男さん。
 寺沢さんの話
 「日本ではむかしから投資と投機とをわけて考えます。伝統的に、投資は正しいし、投機をいかがわしいとするのです。アメリカでは、投資的な証券市場参加者は10%ぐらいしかいません。あとの90%は投機です」
アメリカ素描  おそらく日本の株式市場でも同様であろう。企業の資本調達にひと役買ってやろう、といった気構で株を買っている人はごくわずかで、大半は株の値上がり差益を狙っての参加ではないだろうか。明らかに投機目的のカネが兜町や北浜に集まってくるが、それが投機家の意図せざる結果として資金調達の場を形作ることになる。

 商品先物市場の投機家たちも公正な価格形成のために、あるいは企業のリスクヘッジ(危険回避)のために参加している訳ではないが、結果として透明度の高い価格形成やリスクヘッジに寄与している点で、証券市場と同工異曲である。
 再び寺沢さんの話
 「スペキュレーションというコトバは、ここにいるひとびとのふつうの会話に頻度高く出てきて、べつにコワイという語感は、この国ではないんです。・・・先物売買のことをフューチャー(future)というんです。投機は主してフューチャーをやることなんです」

 中学の英語ならspeculationは、第一義である「熟慮」とか「思索」として覚えておけばいいが、ここウォール街では「投機」「思わく」のことになるのだ。それにしてもspeculationの第一義が「熟慮」「思索」であるのは興味深いことだ。「投機」は日本では「賭博」「やまかん」の響きを持ちがちだが、もともとは深い思索に裏付けられた堂々たる経済行為なのである。

 寺沢さんによると、ウォール街の投機家の四分の一はユダヤ人で、あとの四分の三はワスプだという。ワスプ(WASP)とは、ホワイト(W)にしてアングロ・サクソン(AS)、そしてプロテスタント(P)のこと。早くいえば、イギリス移民の子孫たちを指す。
 そこで司馬さんは考える。
 「ポンドで象徴されるイギリスは、十九世紀末、あるいは二十世紀のある時期までは、世界の金融界をリードした。彼らイギリス人はアメリカに来ても、情報収集とその分析、安全な投機システムの創作と勇敢なフューチャーということにかけては、他民族などくらべものにならないほど卓越しているという。ワスプがドルを支配している以上、アメリカの事実上の支配民族系は、やはりワスプである」

(画像は<司馬遼太郎著>「アメリカ素描」新潮文庫)

【 鍋島 高明(なべしま たかはる)略歴 】
■昭和11年高知県生まれ。34年早大政経卒、日本経済新聞社入社。47年商品部次長、夕刊コラム「十字路」に執筆。58年同編集委員、夕刊「鐘」、朝刊「中外時評」に執筆。日経金融新聞で『ニッポン相場師列伝』連載中

■日経産業消費研究所、日経総合販売を経て、平成9年友人5人で(株)市場経済研究所を設立、現在代表取締役。

■著書『相場師奇聞』(河出書房新社)、『相場師異聞』(同)、『今昔 お金恋しぐれ』(同)、『ヘタな経済書より名作に学べ 金と相場』(河出書房新社)、『鎧橋のほとりで』(米穀新聞社)、『市場雑観 商品記者の切抜帳』(五台山書房)、共著『フューチャーズ群像の素顔』(市場経済研究所)、『日本市場史』(日経事業出版社)ほか。

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