株式会社市場経済研究所

市場研コラム

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文学にみる「マネー&相場」15[鍋島](2006..05.07)

米山公啓著『「持たない!」生き方』
命もお金も使い切れ

米山公啓著『「持たない!」生き方』

平均的日本人は、2,000万円を残して死んでいくという。相続税の高い現代において、なんとももったいない話しではないか。早稲田の名物教授、考古学の吉村作治先生は、かつてこう言い放った。
 「僕は死期を感じたらすべての財産がゼロになるまで処分する。そうでないと気が治まらないんだ」  
 遺産を残して他人に玩弄(がんろう)されるのは耐えられないので、全部使ってから死ぬというのである。
 
 本書の著者、米山公啓氏は当年53歳の医学博士で診療を続けるかたわら140冊の著作を持つ。それでいて世界旅行を楽しみ、ワールドクルーズには再三出掛け、『船旅の愉しみ クルーズ入門』などという著書もある。米山氏は「金は使い切って死んでいく」吉村イズムの信奉者である。
 
 「日本人はいざという時に備えているので、自然に金が貯まっていってしまうのだろう。で、結局、多くの日本人が2,000万円前後の資産を残して死んでいき、残った金は子どもたちの相続となり、もめ事の原因になったりする」 
 米山博士によると、行楽期に祖父母をつれて家族旅行に出掛けるのは祖父母の遺産に期待しているからだとか。
 「自分のために金を使うのではなく、子孫のために金を使うということは、自分の生甲斐にもなるし、確かに楽しいだろう。しかし、本当の意味で、それは自分のために金を使ったことにはならない。金を家族のために残すという発想を捨てるべきではないだろうか」
 自分の意思で自分の金を使うことを著者は主張しそれが引いては日本経済を活性化させることにもなると説く。確かに1,400兆円に及ぶ個人金融資産は高齢層にがっちり握られたままである。そして米山博士は新しい老後の生き方を提案する。博士の専門は神経内科だという。
 「75歳を越えて、ベンツを買ってみるとか、豪華なホテルに泊まってみるという、挑戦的な生き方ができるか、どうかが、健全で若い脳を持っている証でもある」
 世界のクルーズにはまっている米山博士は、老後の大型客船でのワールドクルーズをすすめる。世界一周の最大の秘密は「その間、全く時が止まった感覚になることで、少なくとも90日間は歳をとったという感覚は消えてしまう」そうである。お金に代えられない感動を実感できるという。そして本書はこう結ばれている。
 「命も金も使い切る人生に挑戦してみようではないか」

(画像は米山公啓著『「持たない!」生き方』大和書房)

【 鍋島 高明(なべしま たかはる)略歴 】

昭和11年高知県生まれ。34年早大政経卒、日本経済新聞社入社。
47年商品部次長、夕刊コラム「十字路」に執筆。
58年同編集委員、夕刊「鐘」、朝刊「中外時評」に6年間執筆。
日経電子版に『相場師列伝』連載中。
インターネット上の「鈴木商店記念館」監修。

日経産業消費研究所、日経総合販売を経て、
平成9年友人5人で(株)市場経済研究所を設立、現在代表取締役。

■著書
『日本相場師列伝』『日本相場師列伝U』『語り継がれる名相場師たち』(以上日経ビジネス人文庫)、「海坊主と恐れられた男 岩崎弥太郎」「大番頭金子直吉」(高知新聞社)
『ヘタな経済書より名作に学べ 金と相場』(河出書房新社)、
『鎧橋のほとりで』(米穀新聞社)、『北内正男と二家勝明−たどり着いて未だ山麓』