株式会社市場経済研究所

市場研コラム

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人物秘話、ときどき相場談義 25[鍋島高明](2015.12.03)

野間宏の「さいころの空」
倉増、1人2役の活躍

さいころ

 野間宏の「さいころの空」がベストセラーとなるのは、昭和35年(1960年)初めのことだ。戦後の代表的相場小説といえば獅子文六の「大番」と野間宏の「さいころの空」が双璧といえよう。これに松本清張の「告訴せず」、梶山季之の「赤いダイヤ」を加えて4大相場小説といえるかも知れない。さらには清水一行の「買占め」を加えて相場小説の傑作5編とひっくるめることができる。
 戦後を代表する純文学作家の手になる「さいころの空」は「読みにくい」ことで定評がある。全編これ会話調の文章で、しかも長編ときているから読み終えるのに骨が折れる。満員電車の往き帰りに読むというわけにはいかない部厚さである。それでもベストセラーになるのだから、当時、野間宏の人気が若者たちに圧倒的支持を得ていたということだろうか。
 
 「さいころの空」に登場する相場師たちにはモデルがいる。

 軍師船原老人 南波礼吉(金万証券)
 猪沢復吉   倉沢増吉の青年時代
 三村菊次郎  山村新次郎
 豊高紡績   近藤紡績所
 前藤京太   五島慶太
 兜町の彗星  横井英樹
 桐生の山田  川村佐助
 大垣元男   倉沢の壮年時代

 「彼と初めて話した者は、大よそ彼が常人でないと感じるだろう。態度といい、言葉といい、何か変わったところがある。16.7歳で兜町へ飛び込み、天才と呼ばれ、鬼の異名をとったほどの男。多くの相場師がそうであるように、彼も起伏の激しい人生をたどり、昨今の彼は、野間氏の言葉を借りれば禅の悟りをひらいて落ち着きをみせているようである」(週刊株式・昭和35年2月20日号) 
 倉増は自伝的作品をいくつか描き、そのカリスマ性をもって投資グループを率いている。
 「経済5日会」「経済銀友会」を持っている。女性投資家を束ねて教祖に収まってもいる。倉増の標的とするのは4大証券。大手4社の投信パワーに挑む倉増の姿はドン・キホーテ的であるが、彼の背後には下町の旦那衆や新興成り金、小金を貯えた有閑マダムが控えているだけに、これにチョウチンが付くと4社といえども油断はできない。
 ところで、野間宏は「続さいころの空」を執筆中とのうわさで、鈴木一弘、横井英樹、曽根啓介、藤綱久二郎ら名うての相場師が続々登場するらしい。すでに映画化の話も出ているといわれたが、カラ宣伝に終わった。谷崎潤一郎が北浜を舞台にした相場小説をものすとの情報もついに幻に終わったが、「続さいころの空」も世に出ることはなかった。もし古書街に現れたら大変な高値を呼ぶこと請け合いである。

【 鍋島 高明(なべしま たかはる)略歴 】

昭和11年高知県生まれ。34年早大政経卒、日本経済新聞社入社。
47年商品部次長、夕刊コラム「十字路」に執筆。
58年同編集委員、夕刊「鐘」、朝刊「中外時評」に6年間執筆。
日経電子版に『相場師列伝』連載中。
インターネット上の「鈴木商店記念館」監修。

日経産業消費研究所、日経総合販売を経て、
平成9年友人5人で(株)市場経済研究所を設立、現在代表取締役。

■著書
『日本相場師列伝』『日本相場師列伝U』『語り継がれる名相場師たち』(以上日経ビジネス人文庫)、「海坊主と恐れられた男 岩崎弥太郎」「大番頭金子直吉」(高知新聞社)
『ヘタな経済書より名作に学べ 金と相場』(河出書房新社)、
『鎧橋のほとりで』(米穀新聞社)、『北内正男と二家勝明−たどり着いて未だ山麓』